福岡高等裁判所 平成3年(行コ)18号 判決 1992年8月06日
佐賀市兵庫町大字藤の木九八〇番地
控訴人
井崎金彌
佐賀市堀川町一番五号
被控訴人
佐賀税務署長 永松睦朗
右指定代理人
菊川秀子
同
坂井正生
同
木原純夫
同
樋口貞文
同
荒津惠次
同
白濱孝英
主文
本件控訴人を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が昭和五七年九月一〇日付でした控訴人の昭和五四年分の所得税についての更正及び過少申告加算税賦課決定(但し、昭和六〇年一一月一一日付の異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 事案の概要
原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」記載のとおりであるからこれを引用する(ただし、原判決六枚目裏初行に「林武作」とあるのを「林武」と訂正する。)。
1 当裁判所も控訴人の本訴請求は失当として棄却を免れないものと判断する。その理由は次のとおり付加訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の「第三 当裁判所の判断」記載のとおりであるからこれを引用する。
(一) 原判決九枚目裏五行目の「なっていた」の次に「ことが認められる」を、同一三枚目表四行目の末尾二「したがって、係争年分の損金として必要経費に算入することはできない。」を、同一四枚目裏七行目の末尾に「以上によれば、被控訴人が「闘争」の売上原価を三〇〇万円と認定したことは相当というべきである。」をそれぞれ加える。
(二) 同判決一五枚目表二行目冒頭から同表九行目末尾までを、次のとおり改める。
「乙第二号証(控訴人作成の販売帳)、当審証人原田謙一の証言及び弁論の全趣旨によれば、控訴人が昭和五四年九月、原田に対してその主張の絵画四点を仕入値の価額一〇三〇万円で販売したことが認められなくはないが、右証人の証言によれば、控訴人は昭和五五年以降も原田に対して右絵画代金の支払請求をしていたことが認められ、昭和五四年中に同人が倒産したとか、所在不明になったとかで同人に対する売掛金が回収不能となり、また放棄されたと認めるに足る証拠はないから、係争年中の原田に対する倒産損失として必要経費に算入することはできない。けだし、所得税法五一条二項は「事業所得を生ずべき事業について、その事業の遂行上生じた売掛金、貸付金、前渡金その他これらに準ずる債権の貸倒れその他政令で定める事由により生じた損失の金額は、その者のその損失の生じた日の属する年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入する。」と規定しているところ、ある年分に債権の貸倒れが生じたとしてその額を当該年分の事業所得の計算上損失として計上することができるのは、被控訴人主張のとおり、その事業遂行上生じた売掛金、前途金その他これらに準ずる債権について債務者の所在不明、破産または和議手続開始、事業の閉鎖、その他右に準ずべき事情が生じ、そのために当該債権の回収不能もしくは放棄という事実がその年分中に確定した場合でなければならないと解されるからである。」
(三) 同判決一五枚目表一一行目の冒頭から一六枚目裏一一行目末尾までを次のとおり改める。
「甲第一二号証(新里作成の取引支払高証明書)、乙第二、第六、第七号証、原審証人新里正夫の証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、控訴人がその主張のころ、新里に対し内山孝の絵画「グレーの教会」及び棟方志功の版画三点を仕入価の価額二八七万二〇〇〇円で売り渡したことが認められなくはないが(右証人の証言中には、「グレーの教会」を買った覚えがない旨の供述があるが信用できない。)、右証人の証言によれば、新里は昭和五五年以降も控訴人から支払の催促を受けていることが認められ、昭和五四年中に同人が倒産したとか、所在不明にったとかで同年中に新里に対する売掛金が回収不能となり、また放棄されたと認めるに足る証拠もないから、結局、係争年分の貸倒損失として必要経費に算入することはできない。被控訴人が必要経費として認めなかったことに不当、違法はない。」
2 以上によれば、被控訴人主張のとおり控訴人の係争年分の事業所得金額(△九一八万一〇四一円)を認定することができ、したがって、長期譲渡所得金額を一億一三九七万八〇八三円、納付すべき税額を四三三一万二三〇〇円、過少申告加算税を二一六万五六〇〇円とする被控訴人の本件更正処分等には違法の廉はない。
3 よって、一部理由を異にするが原判決は結論において相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第九五条、第八九条を運用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 佐藤安弘 裁判官 松島茂敏 裁判官 中山弘幸)